イギリス

 イギリスにもいくつかの温泉地があるが、「風呂」の語源となったバースが、その代表といってよいだろう。ロンドンの西方約160キロの所にあり、エイヴォン谷にひらけた美しい温泉町である。18世紀につくられ、しかも町並みが完全に保存されている町として、1987年に世界遺産に登録された。建物の壁はバース・ストーンと呼ばれる蜂蜜色の石灰岩で統一され、景観を保つために、建物を建てる際には同じ素材の使用が義務づけられている。

 町の起源は、紀元前44年にまでさかのぼることができる。ローマ帝国の時代、 ローマ人は豊富に湧き出る源泉の上に女神ミネルヴァの神殿と大浴場を建て、 都市「アクアエ・スリス」を築いた。現在、町の中心部には発掘された浴場遺跡があり、 ローマン・バス博物館として公開されている。


中世の面影を残すバースの町。中央の橋はパルトニー橋


 しかし19世紀末、これらの施設が偶然発見されるまでまったく忘れ去られていた。
 ローマ人が去ったあと浴場は破壊され、キリスト教会は湯につかることを快楽趣味として 非難したからである。しかし11世紀に温泉の治癒力に着目した修道院によって、 バースはスパとして復活した。そして16世紀には、当時の新しい医学が温泉や鉱水の効用を宣伝したため、多くの人が湯治に訪れるようになった。また1677年、国王チャールズ2世が王妃をともなって訪れて以来、王室の愛顧するところとなり、宮廷ぐるみのバースへの移動が何度も行なわれた。