食の多様化につれて酒の好みも多様化の一途をたどる昨今、日本酒の世界でも、たんに「日本酒」としてひとくくりにできないほどの多極化現象が起きている。酒そのものばかりでなく、ネーミングやボトルのデザインといった付加的要素にも工夫がこらされ、かつての日本酒のイメージからは一線を画した、若者にも受けるおしゃれな商品が続々と誕生している。
 一方、こうした流れと平行して酒の原料米に対する認識も格段に高まり、蔵元でも酒の個性に適した米の選択が重要なポイントとなっている。加えて、地域活性化の観点から、酒造りは地元原料米の開発・育成、そして地元酒蔵で醸造という一連の流れで取り組んでいくことが求められており、秋田県でもその取り組みは着実に進んでいる。
 こうした状況のなかで、東北電力(株)が研究・開発した、東北の気候風土での栽培に適した酒造原料米〈星あかり〉が着実に実績を伸ばしている。  
 〈星あかり〉については、別項で詳しく紹介しているが、酒米研究が東北電力(株)の研究開発センターで開始された1988年以降、1996年の試験醸造を経て、現在では東北の蔵元で醸造されている。
 秋田県内の蔵元に限っても、これまでに「夢に酔う」(1999年、那波商店/秋田市)、「星の舞」(2001年、日の丸醸造/増田町)が醸造、発売されている。
 そして今回、純米吟醸「氷晶」(読みかたは「ダイヤモンドダスト」)が、2002年8月に〈星あかり〉を使った秋田県三番目の酒として、「天の戸」をはじめとする人気銘柄が注目を集める浅舞酒造(平鹿町)から発売された。
  同じ酒米を使って仕込んでも、蔵元の個性でいかようにも仕上がりが異なるのが酒造の世界であるが、今回も上々の出来具合であった。しかしながら、本紹介を前に残念ではあるが、限定品であるためすでに完売、次回発売分に期待して頂きたい。必ずやご満足頂けることをお約束申し上げる。
 「氷晶」の仕込みに使った〈星あかり〉の栽培を担当したのは、平鹿町の酒米研究会メンバー・高橋徳男さん(57歳)である。60アールの田で栽培し、20キロの収穫を得たが、高橋さんの田は土が粘質で、しかも水質の良い川にも近く、条件の良さから蔵元に指名されて栽培にあたった。〈星あかり〉は(飯米と比べ)背が高く、倒れやすいので台風による風害を心配したが幸い無事だったので安心したとのことであるが、いもち病対策にはかなり気を使ったという。

   仕込みを担当した杜氏・森谷康市さんに伺うと、仕込む前に描いた「氷晶」のイメージは、いま世間で流行している「淡麗辛口」というテイストではなく、癖のない「柔らかい酒」であったという。自分自身はもとより、家族みんなで食前・食中に飲める、気取らずホッとするような酒、というのが、〈星あかり〉にふさわしいと感じたからである。できあがりはまさに当初イメージしたとおりで、たいへん満足していると嬉しそうに話してくれた。
浅舞酒造の仕込み蔵。 酒米の蒸し作業

 なお、「氷晶」は"うすにごり"と銘打っているが、これは酒槽(さかふね)を使ってもろみが入った小袋を搾る際に、若干搾りかすが入って濁る状態を言い、昔ながらの方法で搾った結果であるという。夏の発売ということも考慮し、氷を浮かべてロックで飲むことも念頭に置いたそうであるが、味にうるさい蔵人たちからも好評であった。
 なお「氷晶」の発売に先立ち、〈星あかり〉を用いた酒が2002年4月、東京でも発売された。これはソメイヨシノの発祥地とされる豊島区駒込の染井銀座商店街がまちおこしの起爆剤として企画したもので、地域限定「染井桜」として発売したものである。

[データ]
名称=純米吟醸「氷晶」(ダイヤモンドダスト)
原材料名=米・米こうじ
原料米=東北電力(株)開発米〈星あかり〉100%使用
精米歩合=50%
アルコール分=15度以上16度未満
価格=税別1,500円
 
[問い合わせ]
浅舞酒造株式会社
〒013−0105 秋田県平鹿郡平鹿町浅舞字浅舞388
TEL0182−24−1030 
FAX0182−24−0708