美酒を育む<星あかり> 育てるアイコン
“Hoshiakari” for Tasty Sake●New Sakamai Debuts

刈り入れ写真

地域の気候風土に適した酒米の開発が求められている。どの銘柄ともちがう、個性ある酒づくりのために、それは欠かせない。そしていま、期待を一心に集めた新品種〈星あかり〉が、10年余の研究の成果としてデビューを果たした。
Rice is used to make sake as well as being our principle food. It is natural that the quality of rice is important for sake brewing. Each prefecture in Tohoku is working on research to develop a sakamai suitable for Tohoku.

●星あかりプロジェクト

 今回の「星あかりプロジェクト」は、酒造原料米の研究開発に長年取り組んできた東北電力(株)研究開発センター(仙台市)を中心に、米の栽培農家、醸造元の三者が協力して、東北地域に適した酒米を開発し、さらにそれを原料として地元の蔵元が美酒に育て上げるという、ロマンあふれる試みである。
 秋田県内では、米の栽培を鈴木秀則さん(大潟村)、醸造を那波(なば)商店(秋田市)が受け持った。
A new brand of sake uses the newly developed “Hoshiakari (Starlight) sakamai, which was the subject of a long-term study at the Tohoku Electric Power Co., Inc. Research and Development Center in Sendai, the central city of Tohoku.

刈り入れ写真●刈り入れ
 真っ青な空を背景に、稲穂の波が揺れている。朝陽を浴びて黄金色に輝く田んぼがまぶしい。男鹿半島の寒風山も手がとどきそうなほど間近に見える。
 トレードマークのつなぎ服を着た鈴木さんが、ゆっくりと姿を現わす。大潟村で農業を営む米づくりのなかでも、とくにプロ意識の強い若手のホープだ。有機農法による米づくりを推進する一方、酒米にも力を入れている。
 10月21日(1998年)は、鈴木さんに育ててもらった〈星あかり〉の刈り入れの日であった。長い間、〈星あかり〉の研究に取り組んできた鳥山さんをはじめ、東北電力(株)の関係者が見守るなかで、コンバインが動きだした。
Rice was cultivated by Hidenori Suzuki in Ogata-mura, and the sake was brewed and is marketed by Naba Shoten in Akita.

●酒米に対する再認識
 近年、清酒に対する消費者の嗜好は多様化している。吟醸酒をはじめ、高級な酒がブームとなり、マニアといってもよい愛飲家もふえた。原料米は何か、精米歩合は何パーセントか、日本酒度は、酸度は、そして杜氏の名前まで裏ラベルのデータを見てチェックする。
 また、ネーミング、ボトルの色や形、ラベルのデザインまで含めた全体のイメージも大切で、酒造業界も細かい点にまで気を配りながら、さまざまに試行錯誤を繰り返している。
 こうした状況のなかで、とくに酒の原料米に対する認識が強まり、酒の個性に適した米の選択が重要なテーマとなっている。これには、地域の活性化のためには、地域独自の原料米の開発・育成、またその原料米を使った地元の蔵元による地元ブランドの酒造りが強く求められている、という事情もある。
 こうした社会的背景と相前後して、昭和63年(1988)以降、東北電力(株)研究開発センターは長年にわたって酒造原料米の研究を手がけてきた。米の収穫は一年に一回、時間のかかる研究だ。平成7年(1995)に、宮城県で試験栽培し、翌年試験醸造した実績はあるが、こうした実験はひとつひとつデータを着実に集めていく地味で気長な作業だ。鳥山さんたちの表情に、期待と不安が入りまじるのは当然のことである。


●〈星あかり〉で夢に酔う

 3月1日、〈星あかり〉でつくった純米大吟醸酒「夢に酔う」の上槽が、秋田市土崎港の那波商店で行われた。上槽とは、醪(もろみ)から清酒をしぼることである。今回のプロジェクトの、まさにハイライトシーンだ。
 最初は「袋つり」という方法でしぼる。醪をいくつかの酒袋に移し、それを貯蔵タンクに渡した棒にぶら下げる。あとは引力によって、酒がタンクに溜まっていく。
 頃合いを見計らうと、杜氏の石沢さんの手がコックにのびる。タンクに溜まった生酒が荒走る。石沢さんを取り囲む人垣が、一瞬緊張感に包まれる。石沢杜氏はまず香りを確かめるとそっと口に含んだ。かすかに目が笑っている。緊張がすこしゆるむ。 周囲に次々と茶碗のようなきき猪口が回される。慎重に味わう人びとの姿は真剣そのものである。やがて、感動が静かに広がり、全員の表情がなごむのを感じた。


●米づくり、酒づくり
 長年にわたって酒造原料米の研究に取り組んできた東北電力(株)研究開発センターの鳥山伸一さん、今回〈星あかり〉を栽培した鈴木秀則さん、酒づくりを受けもった杜氏の石沢惣一さんの感想。


[鈴木]
これまでずっと〈亀の尾〉というむずかしい品種を栽培してきたので、それにくらべると〈星あかり〉はすなおでかわいいやつでした。
 私がつくったのは1町歩(1ヘクタール弱)で、80俵の収穫がありましたから豊作といってよいでしょう。検査官から、非銘柄米なので制度上2等が上限ですが、実質は特等米相等と評価されました。米づくりに限っていえば、おおむね成功でしょう。
 しかし米の段階で評価が高くても、それは米だけの話で、本当にうまい酒になるかどうか、仕込んでみないとわかりません。

[鳥山]酒米というのは、農作物でありながら、工業品種でもある。米と酒と両方で合格しないとだめなんです。

[鈴木]〈星あかり〉は〈美山錦〉をライバルに想定しているのですが、それを超える可能性をもっています。だけど、酒になったときに、まったく新しいタイプの酒、ほかの酒とくらべて、まさに〈星あかり〉でしかつくれない酒になるかどうか、ということが重要になってくるでしょうね。

[鳥山]今回、秋田県では、米づくりは鈴木さん、酒づくりは那波商店という組み合わせになりましたが、東北地域のなかでもさらにいろいろな地域、醸造元と試験を重ねていかないとわからないですね。
[石沢]酒づくりの立場からいうと、最初に感じたのはちょっと硬い米だなということです。硬いと溶けにくいし、発酵もおそくなります。だから上槽日もちょっと遅れましたね。

[鳥山]前回の試験栽培、試験醸造のときも、硬いということは指摘されました。硬いと精米に時間がかかり、コスト高になります。また。糖からアルコールに転化していく過程での、発酵の出足が遅くなる。いわゆる、ボウメの切れが悪くなる。
 しかし、このときは比較のために〈美山錦〉と同時栽培、同時醸造したのですが、まったく酒質のちがうものができました。〈美山錦〉のほうはスッキリとして通向き、〈星あかり〉はまろやかで女性向き、という評価をいただきました。

[石沢]今回、精米歩合を40パーセントまであげて仕込んでみましたが、途中、発酵がおそく心配したのですが、うまくできたと思います。香りに品があり、ソフトで口あたりがよいですね。秋田県で開発した酒米〈吟の精〉に似た感じですね。

[鈴木]だいじなことは酒の個性です。ほかのいかなる酒とも競合しない、まったく新しい酒質のものをつくりだせるかどうか、ということでしょうね。

[鳥山]いろいろな品種の米を試すしかないのでしょうね。米というのは、酒米に限らず、さまざまな品種をそろえ、そこから選んで改良するしかない。気長に、時間をかけて試すしかないのです。

[鈴木]理想的な品種を、人間が意図的につくりあげるのはむずかしいでしょうね。酒というのは、米自体の質だけで決まるのではなく、醸造するときのさまざまな技術、条件が関係してきますから、すべての要求を満たすことは不可能です。だから、理想を追い求める酒米づくり、というのはムリかもしれません。
 しかし、新しい酒米は絶対に必要です。いま、一般酒の売れゆきが落ちていますが、逆に特定高級酒は伸びている。そうした高級酒に合う新しい品種は、多くの醸造元も期待しているし、各県でも品種の改良には力を入れています。

[鳥山]
〈星あかり〉でつくったお酒は、ソフトなところが評価され、またそれが特徴です。那波商店からは「夢に酔う」という、ロマンチックな銘柄で三月に発売されましたが、秋には火入れをしたタイプもでます。今後も継続して研究を重ね、〈星あかり〉を酒米の輝ける星にしたいと思います。

夢に酔うラベル
夢に酔う裏ラベル
●純米大吟醸酒
「夢に酔う」720ml
生貯蔵酒(1999年3月販売) 2,500円(税別)また火入れ酒タイプは7月販売
[問い合わせ]那波商店 〒011-0946
秋田市土崎港中央1-16-41
*Sake, "Yume-ni-You (Intoxicated with Dream)", made from "Hoshiakari" was launched in March 1999.
To get further information, please contact:
Naba Shoten
Address: 1-16-41 Chuo, Tsuchizaki-ko, Akita-shi, Akita, Japan
Tel: 81-18-845-1260 Fax: 81-18-846-7800

●酒造原料米の研究開発

 日本酒の原料となる米は、一般酒の場合、秋田県ではササニシキ、あきたこまち、トヨニシキ、キヨニシキといったうるち米(一般米)を用いることが多い。
 しかし、本醸造、純米、吟醸といった特定名称酒の場合、3等以上の等級格付けを得た米でなければならない決まりになっている。こうした米は、一般米とくらべると大粒で、中心部に心白(しんぱく)をもつ軟質米である。玄米にはタンパク質や脂肪分が多く、これが酒の雑味の原因となるため、高級な酒になるほど多く削り取るので、粒は大きいほうがよい。ちなみに一般酒で30〜35パーセント、高級酒になると50〜60パーセントも削り取る。
 心白というのは、デンプン質が粗く、麹菌のハゼ込みがよい。また軟質の米がよいとされるのは、溶解、糖化しやすいので醸造に適しているからである。
 酒米の横綱は山田錦である。吟醸酒ブームの今日、酒にうるさい人は原料米にも詳しく、山田錦の名もよく知られている。しかしこの山田錦を含め、高い評価を受けているのは、雄町、八反という関西系の銘柄で、こと酒米に関しては西高東低といわれる。
 だが、東北にも評価の高い原料米がある。歴史の古い亀の尾(山形県)、を筆頭に、華吹雪(青森県)、出羽燦々(山形県)、蔵の華(宮城県)、吟の精(秋田県)などがそれである。今回、10年余の研究の末、〈K-101〉として試験がつづけられてきた米が〈星あかり〉と命名され、東北地域の醸造元で美酒にならんとデビューを果たした。

●〈星あかり〉開発の歩み
 近年、酒造原料米の重要性が再認識されるようになり、地域独自の原料米品種の開発、それを使った地域の酒づくりが強く求められるようになった。
 こうした社会状況のもと、昭和63年(1988)3月、東北インテリジェント・コスモス構想傘下のR&D会社、(株)加工米育種研究所が仙台市に設立された。東北電力(株)は、地域公益企業として同研究所に出資するとともに研究員を出向、酒造原料米の開発研究を進めた。
 その後、平成5年度末で同研究所は研究期間を終了したが、育成途上の新品種候補の評価試験を、東北電力(株)研究開発センターに移行し、引き続き実施してきた。
 こうした研究のなかから見出されたのが、〈K-101〉、つまり現在の〈星あかり〉である。
 平成7年(1995)、同センターでは宮城県一迫町農協(現JA栗っこ)の協力を得て、同町内の水田25アールに〈K-101〉と、比較品種として〈美山錦〉を15アールに作付けした。翌8年、収穫した米を宮城県松山町の醸造元一ノ蔵に依頼して、試験醸造を行ない純米吟醸酒「K-101」と同「美山錦」が誕生したが、いずれも非売品であった。
 今回の「星あかりプロジェクト」は、このときの課題、反省点を踏まえて行われたものであり、特に商品として販売され、消費者による反応が期待されるだけにその意義は深いといえる。
Hopes run high that this attempt will be successful and that the use of "Hoshiakari" will become widespread.

K101、美山錦ビン
K101、美山錦米粒

●星あかりの特徴

 炊飯用品種〈初星〉(愛知県)と、東北中南部地域で栽培されている酒造原料米品種〈美山錦〉(長野県)との人口交配により育成された。
 対照品種の〈美山錦〉とほぼ同じ大粒で、心白の発現率、占有割合はいずれもすぐれ、同等以上の酒造適性をもつことが期待されている。



●秋田県以外での試験醸造(いずれも純米吟醸酒
[岩手県](資)吾妻嶺酒造店
[山形県]男山酒造(株)、米鶴酒造(株)、東北銘醸(株)
[宮城県](株)田中酒造店
 以上のうち、男山酒造からは「田の力」という名前で2000年3月販売。720mlで1,500円(税込み)と、同2本入り3,000円(同)。
[問い合わせ]
男山酒造(株) 〒990-0037 山形市八日町2-4-13
TEL 023-641-0141 FAX023-641-6225