◆酒の相手はどう選ぶ

 旨酒は、何といっても相手による。『酒譜』には、酒憲法というのがあり、一緒に飲酒して悪き 人というのがあった。守銭奴、気取りや、権勢家、自慢人等々。さらに付け加えると、悪疾の人、 梯子酒の人、単に酔いを求める人、威張る人、美服を喜ぶ人、無趣味の人、鯨飲する人、長 座の人、沈黙の人、半可通の人、酔わぬ人、酒量自慢の人、快諾する人、過去を誇る人、札 ビラをきる人、他人を罵倒する人等さまざまな例が挙げられている。こうなると相手が限られて、 酒杯を共にできる人が少なくなってしまう。

 では、飲酒を共にすべき人とはどういう人かと思って見ると、議論に失せず雅趣のある人、酒 味酒器酒肴を解する人、大言壮語せざる人、他を議せざる人、自然を愛する人、自己を誇ら ぬ人、芸術を理解する人、とあった。



◆愛飲五則

 昭和61年(1986)に書かれた竹村菊昌のエッセイ「愛飲五則」(『竹村菊昌先生文集』所収) によると、かつて「日本酒道会」というものがあった。会の詳細については不明であるが、この 小文を読むかぎり、少なくとも昭和28年から61年までは存在した。当時の会長は、安藤貞重とある。「五則」を、参考までに引用しておく。


(一) 酒は楽しく飲むべし

    酒は酒量にあらず 酒品なり

(二) 酒に飲まるるなかれ

    酒席にてまわりの人を不快にするは外道なり

    ユーモアを肴に心得よ

(三) ただ酒は遠慮すべし

    自分の酒代は自分で支払う気概を持つべし

    ただ酒は汚職収賄の温床なり

(四) 酒を飲むときはおおいに食すべし

    食せずして酒をのむことを誇るはけっして健康な酒飲みとはいえず

(五) 適度な酒は百薬の長のみか家庭円満・事業繁栄・長寿至福に通ず

    自信を持って酒道に精励せよ

 いずれも含蓄があり、得心のゆく言葉である。


◆酒の秋田

 すでに「秋田流酒道を呑む会」も発足した。秋田の酒に関する調査・研究をしたり、ワインの ソムリエならぬ「サケリエ」というものを育成してみたい。また酒大使を委嘱し、県外に秋田の酒 や肴をアピールしたい。ゆくゆくは酒大使館の設立も……、などと夢は膨らんでいく。  今後、「秋田流酒道を呑む会」やADMを通じて、秋田流酒道を皆で考え、育てていきたい。  なお「秋田流酒道を呑む会」発会式で、元川反芸者の若勇さんから小唄「酒の秋田」の踊り が披露された。大変良い唄なので掲載しておきたいと思う。


小唄「酒の秋田」

(作詞)小島彼誰 (作曲)中山晋平

(一) ハァ 朝にゃ米とぐな サテドッコイサト
   
朝にゃ米とぐ 米とぎ水の アーラヨイヨイ
    白くながれて 雪となる
    サテ 秋田米の国 テサテ サテサテ 酒の国
   くんで行かんせ 一夜さは
    クマンセ ノマンセ サシタリ ツイダリ

(二) ハァ 蔵にゃもとするナ サテドッコイト
    蔵にゃもとする もとすり唄の アーラヨイヨイ
    櫂の調子に 夜が明ける
    サテ 秋田米の国 テサテ サテサテ  酒の国
    くんで行かんせ 一夜さは
    クマンセ ノマンセ サシタリ ツイダリ

(三) ハァ ふねには醪(もろみ)をナ サテドッコイサト
    ふねに醪を どっとくみ入れて アーラヨイヨイ
    ぎゅっとしめれば かねの水
    サテ 秋田米の国 テサテ サテサテ 酒の国
    くんで行かんせ 一夜さは
    クマンセ ノマンセ サシタリ ツイダリ

(四) ハァ 樽になる杉ナ サテドッコイサト
    樽になる杉 ふか雪育ち アーラヨイヨイ
    つめたお酒も 雪育ち サテ 秋田米の国
    テサテ サテサテ 酒の国
    くんで行かんせ 一夜さは
    クマンセ ノマンセ サシタリ ツイダリ