◆お酌の美学
国会図書館で『酒譜』という本を見つけた。著者は西村文則、昭和7年啓松堂発行である。
酒道に関しての項があった。
酒を盃に注ぐ作法として、「盃持つ人は、余りきぼいかかりたるも、又及び腰なるもわるし。よきほどに守るべし、見計らいが肝要なり。又盃の上を余り重く入る事第一の粗忽なり。特に酒などをいたす人に、深く重く入る事なるならず」とある。
小生、国会議員秘書時代、赤坂の料亭のおかみから酌の仕方を習ったことがある。まず、お酌は相対する人にする。相手が右手で盃を持ったらお酌は右手、左手で持ったら左手で注ぐ。
クロスさせること。要するに「しぐさ」の美しさなのであった。
ビール瓶は、音がよくないのでコップにつけて注いではいけない。日本酒は、お猪口に軽く徳利をつけて注いでよろしいとのことであった。
ところが関西は違うらしい。京都・東山の料亭のおかみは言う。「うちらでは、東京とちごて盃に徳利をつけたりしまへん」。音をたてることことは、京都ではタブーなのである。
野村万作さんのお弟子、中野三樹氏に話を聞くと、狂言の所作でも酒を注ぐとき、扇子(徳利に見立ててある)を盃につける事はしないという。
秋田流酒道は、盃やコップに音をたてて酒を注がないことにしようか。
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