Shiragami Mountain Range and the Waga Mountains

遙か縄文の昔より、東北全域をおおっていたブナの森――。 豊かな実り、清冽な水の恵みはあらゆる生命の根源をなし、四季の彩りが心を癒す。ブナの森は、われわれの生活を支え、さまざまな文化を生み、信仰の拠り所でもあった。東北のアイデンティティとも言うべきブナの森を守るために、いまいちど森を見つめ直し、人間と自然が一体化した森の文化を学ばねばならない。

Beech forests have long supported our lives, helped produce various cultures and have been the object of worship. We now must see them in a new light, and learn a forest culture where people and nature are integrated and protect our beech forests that can be said to be the identity of Tohoku.


Photo:Gensaku Izumiya

紅葉するブナの森

[縄文文化をはぐくんだブナの森]
 Beech Forests Foster Jomon Culture


 弥生時代(BC3世紀からAD3世紀にいたるおよそ600年間)に北部九州で始まった水稲稲作は、西日本一帯から急速に東日本へと普及し、食糧生産における大変革をもたらした。
 やがて、この画期的な農業文化を持った弥生の子孫たちによって日本の支配態勢が進み、 弥生的な文化観が優勢となっていく過程で、日本文化の深層を形成していった。
 しかしながら、日本の土着民であった狩猟採集民=縄文人は、弥生時代以後も消滅したわけではなく、独自の生活形態を継承しながら日本の文化に多大の影響を与えてきた。青森県三内丸山遺跡の発掘と、それに続くあらたな発見・調査・研究などによって、縄文文化の見直しが急速に進展し、つぎつぎと豊かな世界像が明らかとなっている。


Photo:Gensaku Izumiya

新緑のブナ林に咲くタムシバの花

 青森、秋田をはじめ、縄文時代における東北全土は鬱蒼たるブナ林帯であった。ブナ、ミズナラ、カシワ、トチ、クリ、クルミなどの木の実は、照葉樹林帯のシイ、カシなどより種類、量ともに豊富であった。三内丸山遺跡には、花粉分析の結果、大規模なクリやクルミの林が集落周辺に存在していた。また森には山菜、キノコ、イノシシ、シカ、ウサギなど、食糧となる動植物があふれ、周辺の海では森の養分を含んだ河川の流入により、魚が豊富に穫れた。縄文のブナの森は、まさに豊穣の森であった。
 当時の生活が明らかにされるにつれ、縄文の人びとは季節のサイクルのなかで効率よく、しかもきわめて合理的に狩猟採取をしていたことが次第に判明してきた。けっして乱獲をせず、また小さな生き物は捕らずに次の年まで大切に残しておく智恵を持っていた。日本の季節に適応する「循環システム」を熟知した、森の文化の体現者であったのだ。


Photo:Gensaku Izumiya

ブナの実

 だが、縄文時代から続いてきたこのようなシステムは、各地の山村に受け継がれ、今日も生きている。6000年前の生活文化は、今日言うところの「自然資源の永続的利用(サスティナブル・ユース)」という合理システムを、とっくの昔から実践してきたのである。高度経済成長のもとで全力疾走してきた私たちは、消費文化のなかに安住し、泡沫経済の破綻を体験した。

さらに現在、政治・経済問題ばかりか、高齢化問題、人口の増大と食糧危機、エネルギーや環境問題などなど、深刻な状況がよりいっそう混迷の度を加え、ストレスは増大する一方である。21世紀へ向かおうとしているいま、20世紀型の文化を反省し、自然と人間が一体となった縄文型循環社会を創りあげていくことが必要ではないのだろうか。
 東北に広がる豊かなブナの森。秋田県に限っても、白神山地、和賀山塊、鳥海山麓などには、広範囲にブナの原生森が残されている。縄文文化の記憶を残すブナの森は、東北のアイデンティティである。こうした森の文化を学び、後生に伝えことが私たちの使命であるといえよ う。

 In the Jomon period, Tohoku was covered with dense forests. The life of the Jomon people is now becoming clear, and it is known that they efficiently hunted and gathered according to the cycle of the seasons. They embodied a forest culture with perfect knowledge of a "circulation system" which is recognizable in the four seasons in Japan. Rich beech forests spread in Tohoku. As far as Akita Prefecture, virgin beech forests are still seen in the Shiragami Mountain Range, the Waga Mountains and at the foot of Mt. Chokai. Beech forests are a reminder of the Jomon culture and the identity of Tohoku.