森と水の「循環作用」
Woods and Water "Circular Action"


フェニキアのきこりがエジプト向けのレバノン杉を伐採しているところ
(J. パーリン『森と文 明』より)

[森林破壊の歴史]Progressing Deforestation

 人間(を含めたあらゆる生物)の生命維持に必要不可欠な水について考えることは、即ち森について考えることでもある。
 人類が出現する前の地球は、陸地の45パーセントを森林が占めていたという。しかしながら、人類の歴史を振り返ってみると、それはまさに森林の破壊の歴史であった。5000年前、古代メソポタミアに始まった文明は、地中海沿岸からヨーロッパへと拡大し、あまたの文明を生み、さまざまな国が興亡を繰り返した。それは太古の森を切り開き、木々を伐り尽くす破壊の歴史でもあった。人類 は建築・家具材、燃料材、紙の原料材、船舶材など、文明を支えるほとんどの物資を木に依存してきたのである。しかし、豊かな森を背景に栄えた文明は、森林が消滅していくにつれて次第に衰退していった。

:18世紀初頭の銅版画。 ヨーロッパの大国は競って
   外洋船を建造、多量 の木材が消費された
:15世紀の木版画。森で伐った木を持ち帰る人びと。
   燃料用の薪にした (J. パーリン『森と 文明』より)

 現在、森林が分布している地域は赤道に近い熱帯域、高緯度域(冷温帯・亜寒 帯)、そして大陸の東岸部である。こうした地域のなかでも、全国平均でおよそ1800ミリの年平均降水量を記録する日本は、森林が成立するに充分な湿潤条件を備えているため、世界有数の森林大国となった。しかし、こうした条件にかなう土地は陸地の三分の一にすぎない。「山に行けば森があ る」という思いは、おそらく日本人の共通感覚であろうが、これは豊かな森に恵まれた者のみが抱く、幸福なる自然観であることに気づくべきであろう。

 人類の出現以前、45パーセントもあった森林の占有面積は、20世紀初頭には陸地の三分の一に減少した。しかし、さらなる人口の増加によって森林は開発され、2000年には六分の一、2020年頃には七分の一に減少すると予測されている。現在、地球上にはおよそ60億を超える人間が暮らしているが、その90パーセントが熱帯域の発展途上国に集中している。発展途上国では、日本ではすでに過去のものとなった木質燃料(薪や炭)が、依然としてエネルギー源として使われている。FAO(国連食糧農業機関)の統計によれば、こうして毎年地球上から失われていく森林は1100万ヘクタール、本州のおよそ半分の面積に相当するという。
*この項を記すにあたり、ジョン・パーリン『森と文明』(晶文社)、只木良也『森 と人間の文化史』(NHKブックス)などを参照しました。


Courtesy of NASA/JPL/California Institute of Technology
アマゾン開発の最前線都市マナウスの上空から見たブラジルの熱帯雨林
(1994年10月3日)

  On earth, before humans came into being, forests occupied 45% of the land. But as civilizations came and many countries and cities developed, enormous forests disappeared and the civilizations themselves have gone into decline. Forests decreased to one third of the land in the early 20th century, and are predicted to become one seventh of the land by around 2020 due to population increases.