〈川船〉River boat  
簾内定男 Sadao Sunouchi


川舟について語る簾内さん

 鉄道やトラックによる輸送が主流になる以前、米代川やその支流の阿仁川には、杉材や鉱物、食糧や日常品を運ぶ舟が行き交い、大いににぎわっていた。また川漁のための舟、渡し舟なども必要とされたため、川の近くには舟大工職人がたくさん住んでいた。
 簾内定男さんは、現在、二ッ井でただひとり残る舟大工である。しかし注文がないので、ここ何年も川舟を作っていないと、ちょっと寂しそうな表情を浮かべていた。
 モノクロ写真に写っているは、昭和27年(1952)に営林署の発注で作った「オモキ舟」と呼 ばれる、運搬用の舟である。「ズアイ舟」とも呼ばれる。このほかに、漁に使う平底の板舟や鉱物運搬用の石舟があるが、簾内さんはもっぱらオモキ舟と板舟を手掛けてきた。
 舟を作るときは昔ながらの尺貫法を用いる。しかし驚いたことに、「舟帳」という簡単な設計図しかなく、これで充分事足りるという。職人技というものは、所詮は身体で覚えるもの。だからこのような基礎データがあれば、あとは経験と練達の技術で作れるのであろう。
 なお、金足の秋田県立博物館には、簾内さんの作ったオモキ舟が展示されているので、いつでも見ることができる。


舟の設計図とも言うべき舟帳。
昭和26年頃から約50隻ほど作ったという

営林署の依頼で作ったオモキ舟(昭和27年)

数年前に作った板舟。長さ36尺(約11m)

[連絡先]〒018−3101 秋田県山本郡二ッ井町麻生字下悪土22−11 
簾内工務店  TEL0185−73−2246

 At one time, boats carried cedar lumber and daily necessities up and down the Yoneshiro- gawa River and its tributaries. The rivers were a hustle of activity. Boats for fishing in the rivers and ferrying people were essential. Many ship carpenters lived nearby the rivers. Mr. Sadao Sunouchi is the only ship carpenter in Futatsui, but he has had no orders and has not made a ship for years. The monochrome photo shows a carrier made in 1952.


〈山仕事の道具〉
Tools for the work in mountains
安保製作所  Anbo Blacksmith


左が安保新次郎さん、となりが誠喜さん

 チェーンソーなどの機械が普及する前の昭和30年代まで、杉の伐採・運搬に使うマサカリ、 カマ、トビ口など山仕事の道具を作るのは鍛冶屋であった。ところが、山本郡内に23軒、二ッ 井だけでも14軒あった鍛冶屋も、現在は安保(あんぼ)製作所ただ一軒を数えるのみである。
 当主の安保新次郎さんは8代目で、後継者の長男誠喜さんとふたりで息のあった仕事ぶりを 見せる。現在手掛けているのは包丁、ナタ、カマ、鋤、鍬などである。かつては山仕事の道具、 馬耕用具、船・橋用の釘、石工道具、マタギ用ナイフなど、いくら仕事をしても追いつかないほ ど需要があった。豊かな産業が確かな仕事を育てるという、良き時代でもあった。
 仕事量は最盛期の十分の一にも満たないが、安保製作所には知る人ぞ知るベストセラーが ある。誠喜さんが考案した「安保式省エネ薪ストーブ」である。一見して気づかないが、プロパ ンガスのボンベを利用したものである。燃焼効率の良さ、使い勝手の良さが人気を呼び、全国 各地から注文が相次ぎ、生産が追いつかない毎日である。「日本一の腕を持った村の鍛冶 屋」が夢、という誠喜さんの言葉が頼もしい限りであった。


山仕事の道具。左から枝打ちナタ、木登りツメ(2点)、
木割りマサカリ (上)、トビカギ


左から出刃包丁、菜切り包丁、熊ナタ、ナタ


[連絡先]〒018−3103 秋田県山本郡二ツ井町荷上場字鍋良子出口95 
安保製作所  TEL0185−73−2884

 Blacksmiths made tools for the work in forests including broad-axes, sickles and fire hooks to use for cutting and carrying cedar until machines gained popularity. Now, the Anbo family are the only blacksmiths in Futatsui. In the past, blacksmiths were very much in demand and they could not do all the work even if they worked very hard. He currently manufactures only a limited range of knives, hatchets, sickles, plows, hoes, etc.

*この項写真 Tadahisa Sakurai