さて、温泉にいくと必ず目にする「温泉成分分析表」は、源泉が法律に定められた条件を満たしていることを意味する、いわば温泉営業認定証のようなものである。分析結果とともに適応症や禁忌症が書かれているが、はっきりした治療目的をもって訪れた人以外は関心が薄く、ちらりと読んではあらかた忘れてしまうというのが現状のようだ。

温泉の分類にはPH区分、温度区分、浸透圧区分、泉質区分の4種類があるが、PHが著しい場合などを除いて、効能にいちばん関係するのは泉質である。泉質は1971年(昭和46)の温泉法改正で主な含有イオン名で表わすようになったが、一般になじみにくいため、9種類に単純化された掲示用新泉質名で表示されている。それぞれの特徴と、泉質に基く効能をおおまかに列記すると次のようになる。なお、[ ]内は改正前の旧泉質名である。




「諸国温泉効能鑑」(番付表)
※番付表をクリックすると大きな画像で見ることができます。




@単純温泉[単純泉]
 いろいろな成分を少しずつ含み、湯が柔らかで飲泉に適していることが多いが、それぞれの温泉によって効能が違う。数としてはいちばん多く、名湯といわれるものが多いようだ。

A二酸化炭素泉[炭酸泉]
成分の炭酸ガスが気泡となって肌につくため、血行を良くする。また、血圧を下げるため「心臓の湯」といわれる。飲泉すると胃腸の働きを高める。

B炭酸水素塩泉
 これには2種類あって、[重炭酸土類泉]はカルシウムやマグネシウムを含み、けいれんや炎症を抑える鎮静効果がある。また[重曹泉]は、肌がすべすべするもので、いわゆる「美人の湯」といわれるもの。飲泉では胆汁の分泌を促進するため、別名「肝臓の湯」ともいわれる。
Cナトリウム塩化物泉[食塩泉]
 口に含むと塩味がする。皮膚についた塩分が汗の蒸発を防ぐため保温効果が高く、筋肉痛やリウマチに有効。飲泉では胃液の分泌を整え、腸の運動を活発にする。

D硫酸塩泉
 これは、4種類ある。[芒硝泉]はナトリウムと硫酸イオンを含み高血圧、動脈硬化症、肥満症に有効である。
[石膏泉]はカルシウムと硫酸イオンを含み、打ち身、外傷によい。「傷の湯」といわれる。
[正苦味泉]はマグネシウムと硫酸イオンを含み、効能は芒硝泉、石膏泉に準ずる。
[明礬泉]はアルミニウムと硫酸イオンを含み収斂作用があり、慢性皮膚病に有効である。

E鉄泉[炭酸鉄泉、緑礬泉]
 鉄分を含むため、無色透明であるが空気に触れると酸化して褐色になり、効果が落ちる。浴用・飲用ともに貧血に効く。またよく温まり、慢性湿疹などにも効果的である。

F硫黄泉[単純硫黄泉、硫化水素泉]
 硫黄独特の臭いがし、湯の花を生じる。角質を軟化させるため、特に皮膚病には有効。硫黄は解毒作用を促し、また、硫化水素ガスは痰の排出効果に良いため、気管支炎に効果的である。

G酸性泉[酸性泉]
 殺菌力が強く、水虫や慢性皮膚病に効果的であるが、刺激が強すぎると湯ただれを起こす場合もあるので、よく確かめることが必要。

H放射能泉[ラジウム泉]
 ラジウム、ラドン、トロンを含みリウマチ、神経痛に効果的。また利尿作用が強く、痛風や尿路疾患に有効である。


 以上はあくまで含有物質の化学作用から有効と思われる症状を示したもので、泉質が同じだから効能も同じとは限らないし、誰にでも必ず効くというものでもない。また源泉での分析なので、高温のため水で温度を下げたり、長距離引泉や循環使用を行なえば、時間とともに成分が気化・沈殿して劣化することもある。