澄川地熱発電所全景
●地熱発電とは
 我が国は世界有数のエネルギー消費国であるが、資源に乏しくそのほとんどを海外からの輸入に頼っている。このため、当社では、一つのエネルギーに偏らないよう様々なエネルギーを利用して発電を行なっており、その一つが「地熱発電」である。  地熱発電では、深さ約3キロほどの地中から噴出する蒸気で直接タービンを回し、発電機を駆動して電気を得る。
 火力発電では石炭、石油、LNGなどの燃料をボイラーで燃焼し、その熱で蒸気を発生させるのに対し、地熱発電で燃料・ボイラーの役目を果たしているのは、マグマという巨大なパワーを備えた「地球」そのものである。
 地球は、中心部へ近づくにつれて高温となるが、深さ30〜50キロで約1,000℃の大きな熱の貯蔵庫なのである。
 ただ、残念なことに、この熱源は地球の奥深くにあるため、現在の技術では利用することができない。しかし、火山や天然の噴気孔、温泉、変質岩などがある地熱地帯では、比較的浅い部分におよそ1,000℃前後の「マグマ溜まり」があり、この熱によって地中に浸透した雨水などが加熱され、「地熱貯留層」を形成することがある。
 この「地熱貯留層」に蓄えられた熱をエネルギーとして利用するのが、地熱発電であり、このエネルギーは、数少ない貴重な純国産資源なのである。
地熱発電所の仕組み
●地球にやさしいクリーンエネルギー
 地熱発電は、化石燃料などによる燃焼がないので、地球温暖化の原因のひとつである二酸化炭素(CO2)の排出量がきわめて少ないクリーンなエネルギーといえる。
 また、蒸気中には少量の非凝縮性ガスが含まれるが、発電後には冷却塔上部から大量の空気とともに上昇拡散させ、地上に滞留しないよう配慮している。
 さらに、発電によって発生する余剰水および蒸気生産井からの余剰水は、すべて地下に還元するクローズドシステムを採用し、環境保全や資源保護を図っている。
●地熱発電の歴史
 世界最初の地熱発電所は、1913年に完成したイタリアのものであるが(実験段階としては、1904年にイタリアで成功)、日本では1919年に海軍中将・山内万寿治が大分県別府において地熱用噴気孔の掘削に成功、これを引き継いだ東京電灯研究所長・太刀川平治が1925年に実験発電に成功したのが最初である。しかし、実用地熱発電所としては、岩手県松尾村の松川地熱発電所(現在も稼働中)が、1966年に運転を開始したのが初めてである。
●東北は地熱エネルギーの宝庫
 当社では、ここで紹介する秋田県の澄川と上の岱(うえのたい)両地熱発電所以外にも、岩手県の葛根田(かっこんだ)地熱発電所、福島県の柳津西山地熱発電所を有し、合計出力22.38万キロワット(秋田県内は上記2ヵ所合計で7.88万キロワット)を誇る。
 当社を含めた東北エリア全体での合計出力は、日本の地熱発電のじつに51パーセントを占めている。温泉の多いことで知られる東北は、まさに地熱エネルギーの宝庫といるのである。
●澄川地熱発電所(秋田県鹿角市八幡平)
 玉川温泉、後生掛温泉をはじめ、たくさんの温泉や八幡平、湯瀬渓谷などの景勝地に近い澄川地熱発電所は、標高1,062メートルという、東北で一番目、日本では二番目の高所にある発電所である。平成7年3月から営業運転を開始し、出力は5万キロワットで、約13万世帯の一般家庭が使用(全世帯が1カ月あたり280キロワットアワー使用した場合:秋田市の一般家庭に相当)する相当の電気を供給できる大規模な発電所である。
 およそ9万8,500uの敷地には、生産井(地下貯留層から蒸気や熱水を採取するための井戸)9本、還元井(生産井から産出され、発電に利用されたあとの熱水を地中にもどすための井戸)12本を持つ。なお、地熱は三菱マテリアル(株)が生産した蒸気を用い、当社では発電のみを行なっている。
 世界で最初に蒸気タービン第一段ノズルに水冷却方式を採用、タービンなどへのスケール付着防止を実現した。
 本館とPR館の建物は山小屋風で、周囲の自然環境になじむよう落ち着いた色調にしてある。冬期は最低気温マイナス20℃、積雪4メートルを超えることもあり、パトロールのための雪上車も配備されている。
中央制御室タービン
●上の岱地熱発電所(秋田県湯沢市高松)
 湯沢市の東南約30キロの国有林のなかに位置し、近くには泥湯温泉、小安温泉があり、また小安峡、木地山高原、川原毛地獄などの観光名所にも近い。
 平成6年3月から営業運転を開始し、出力は2万8,800キロワットで、約8万世帯の一般家庭が使用(全世帯が1カ月あたり280キロワットアワー使用した場合)する相当の電気を供給できる発電所である。敷地は約5万6,400uで、ここに生産井10本、還元井7本を持つ。なお、地熱は秋田地熱エネルギー(株)が生産した蒸気を用い、当社では発電のみを行なっている。
 蒸気への清水注入方式によるタービンスケール付着防止装置の実用化は、世界初の取り組みである。また、小型多セル型を採用して、冷却塔の高さを抑制していることも特筆すべき点である。なお、本館の建物は山小屋風、PR館はログハウス風と、ここでも周囲の自然環境に配慮している。
上左:上の岱地熱発電所全景
上右:タービン(左)と発電器
下左:冷却塔
下右:変圧器の除雪作業