味わい深い山峡の宿 

 施設の豪華さを誇る温泉は数々あれど、温泉そのものの「豪華さ」を競うとなると、ここ鷹の湯に太刀打ちできる宿はそう簡単には見つからないであろう。温泉の快楽を心底満喫できること請け合いの宿だ。


鷹の湯温泉と湯煙をあげる源泉 眺望がすばらしい屋根付き露天風呂

 まずは大浴場。木枠の風呂が3つ、岩風呂と打たせ湯が各ひとつ、同じ空間に5種類の浴槽がほどよくレイアウトされている。木枠の風呂のひとつはめずらしく深さが130センチもある「立ち湯」。湯加減もそれぞれ異なっており、ついつい「はしご」しながら長湯を楽しめる。つぎに屋根付き露天風呂。木枠の浴槽と岩風呂がある混浴用、への字形をした女性用、ともに役内川の清流と山々を眺望できる最高のロケーションである。しかしながら、何と言っても極めつけは、川に沿った野天風呂であろう。しんしんと降りしきる雪のなかを、長靴を踏みしめて渓流に向かう心細さもいっとき、川の流れと同じ目線で湯に浸かれば、自然と一体となった充実感で心身ともに満たされる思いだ。なお、釣り橋を渡った対岸、湯治専用の別館「河鹿荘」も一般旅館に勝るとも劣らない浴場施設を備えている。 温泉宿に対する主人の見識と愛情が見て取れる。

 
ゆったりした女性用の屋根付き露天風呂
5種類の湯が楽しめる大浴場

 宿の歴史は古く、養老年間(8世紀)に行基法師の発見というが、開業は明治になってか らである。書や俳句で名高い秋田の文人政治家・泉川白水、映画にもなった『警察日記』の作家・伊藤永之介などとゆかりの深い老舗である。二代目主人・八兵衛は大の発明狂で、ゴムの車輪付いたカゴを考案し、来客の送迎に使用したという。また、三代目兵太郎は道路を拓き、冬期観光の先鞭を付けたことで知られる。こうした血統をひく現在のご主人小山田さんは、気さくで話好き、親しみやすい宿のムードメーカーとなっている。なお、館内に併設された図書コーナーは、小振りではあるものの、ミステリーや歴史小説好きには嬉しい充実したラインナップである。

 
大自然と一体化できる川沿いの野天風呂
眺めのよい二階の客室

[泉質]
弱食塩泉

[適応症]
神経痛、リウマチ、皮膚病、更年期障害など


[鷹の湯温泉]
〒019−0321 秋田県雄勝郡雄勝町秋の宮字殿上1
TEL0183−56−2141  FAX0183−56−2143   
料金=11,000円から15,000円(2食付)。

湯治専門の自炊部別館「河鹿荘」もある
外来入浴=600円 11時〜15時

[交通]
JR奥羽本線横堀駅下車、同駅から秋の宮山荘行きバスで約40分、秋の宮温泉で下車。
横堀までは山形新幹線で新庄、同駅で奥羽本線乗り換え、
もしくは秋田新幹線で大曲、同駅で奥羽本線乗り換え。
なお、日に往復1便、東北新幹線古川からの送迎サービスあり(要予約)