地域に根付いた温泉文化
 大湯温泉には下(しも)の湯をはじめ、川原の湯、上(かみ)ノ湯、荒瀬の湯と四つの共同浴場があり、現在も地域住民の間にはなくてはならないものとして機能している。温泉町としては一見平凡なたたずまいを見せる大湯温泉であるが、そのなかにあってこうした共同浴場は際だった個性として、ひときわ印象深く感じられた。
 

大湯川沿いに建つ荒瀬の湯
 
 四つのうちで一番規模の大きいのが荒瀬の湯であるが、大湯川の川べりにつつましく建っている様子はなかなかに風情がある。おそるおそる戸を開けると、番台のおばさんが笑顔で出迎えてくれた。料金はひとり120円、これは他の共同浴場も同額だ。また、朝の6時から夜9時まで開いているというのも、やはり四軒とも同じである。
 脱衣所から少し下がった浴室は、大体10人くらい入るといっぱいであるがこざっぱりとして気持ちいい。川に面した明かり取りから射す自然光が、湯気を通してぼんやりと浴槽に広がる情景は平和そのもの。至福のひとときを味わうことができた。
 ここには休憩用の部屋もあり、ちょうどひと風呂浴びた主婦たちがこたつに入って世間話に花を咲かせていた。みなさんこうして風呂に入っては休み、お茶を飲んだりおしゃべりしてはまたお湯に入る。朝9時すぎから午後の2時くらいまで、こうして過ごす人が多いという。
 
 
荒瀬の湯男子用浴場
荒瀬の湯、番台
休憩用の部屋
 しかし組合のメンバーともなれば、番台の係り、掃除当番、管理する人など、一年交代でそれぞれの役割分担をこなさなくてはならないから、そうのんきなことばかりもいっていられない。温泉に対する愛情と責任がなければ、維持することはできないのだ。
 歴史的に見ると、この荒瀬の湯は明治時代に開かれた新しいもので、一番古い下の湯はなんと文明年間(1469年〜89年)に発見されたというから、応仁の乱とそれにつづく戦国時代には、すでに人々に利用されていたのだ。下の湯の裏手の山頂には、薬師如来と温泉の守り神である少名毘古那神(すくなひこなのかみ)を祀った薬師堂があり、またかつては付近一帯は「湯ばた」と呼ばれ、古くから開けていたという。
 
 
万治年間に開湯されたという上ノ湯の外観
 
もっとも歴史の古い下の湯
 上ノ湯では建物の脇にある洗濯場で、おばあちゃんがせっせと自分の下着を洗っていた。健康のために毎日ここに通って洗濯していると、楽しそうに話してくれた。豊富な湯量を誇る大湯ならではの情景であるが、地域に根付いた温泉文化の好例を見たように思う。

上ノ湯で洗濯するおばあちゃん
[泉質]
弱食塩泉、無色透明、50℃

[適応症]
疲労回復、打ち身、切り傷、皮膚病、冷え症
神経症、消化器、便秘など

 
[各浴場共通]

外来料金=120円
開場=AM6:00〜PM9:00





[交通]
東北新幹線盛岡駅から花輪線乗り換え、十和田南駅まで。同駅から十和田湖行きバスで20分、大湯温泉下車。また、盛岡駅から十和田湖行きバスもある。
[問い合わせ]
大湯温泉観光協会 TEL0186−37−2960