この蔵の特色は、同じ神宮寺にある〈刈穂〉とは対照的に、「甘口」の酒であるという点だ。地元流に言うならば、「女性好みの」といった意味の、「あねこ酒」。淡麗辛口ばやりの今日、これはひとつの個性と言ってよい。当地は、秋田でも有数の良質な水が得られるが、硬水（刈穂）と軟水（福乃友）の違いでキャラクターがまったく異なるのがおもしろい。
　これに加えて特筆すべきは、代表者・一星（いちぼし）邦彦さんによる商品コンセプト作りと情報発信。後者は、手書き文字をコピーした超アナログ方式による、名付けて『情報不足誌』の発刊である。ネーミングとは裏腹に、誌面からは蔵元の熱意が惻々と伝わり好感が持てる。
　個性派の酒をめざす一星さんは、最近「酒工楽（さかぐら）」を標榜し、商品ラインナップにも同名のシリーズを加えた。酒造りに伴う「工夫」、できた酒を「楽しく」飲む、という主張を文字に 込めたという。
　また、パートナーの杜氏・鶴田惣太郎さんは、一星社長と共に蔵を引っ張る大ベテラン。先代杜氏・佐藤東五郎直伝の秋田流吟醸造りに加え、独自の手法を加味した個性ある銘柄を 産み出して、ファンを大いに喜ばせている。